「誇らしかった」

 立教大学が、昇格を決める勝利を手にする一月前。弟分である立教新座が静かに名勝負を戦っていた。場所は同じ熊谷ラグビー場。



 11月3日。
 花園予選埼玉県大会、準々決勝第四試合、深谷ー立教新座。立教新座はBシードの川越東を三回戦で破っての進出。とはいえ、誰もが大差での深谷の勝利を疑っていなかった。スタンドにそれほど緊迫感はない。
 第一試合では厚く空を覆っていた雲はどこかへ流れ去り、西に傾きかけた日がメインスタンドの影を僅かに焼き付けながら芝へと降りていく。立教のキックオフで始まったこの試合、深谷は開始5分、8分とトライを重ねる。順当な滑り出し。

 11分、立教は10がDGを狙うも外れる。

 FW戦で深谷が圧倒。BKは細かいことを気にせずともトライまで持っていけてしまう。深谷はさらに17分、23分、29分と、3トライ2ゴール(ゴールキックの記録を一本書き漏らした)を加え、前半で勝負を決める。
 しかし、前半の中盤から感じていた。立教のタックルが非常にいいのだ。相手がどれほど強くても前に出てタックル。しかも、起き上がってまたすぐタックルに行く。特にFW三列の溌剌、きびきびとした動きが目に付く。ボールを持った時のSOのゲインの仕方もいい。簡単にクラッシュしないし、簡単に蹴らない。試合が決まったら途中で帰ってもいいカードだろうかなどと考えていたことを反省する。

 後半、深谷のキックオフで再開。経過だけ記せば、10分、19分、27分、32分と深谷が4トライ、2ゴールを挙げ、55-0での大勝。だが。
 深谷のトライ間の時間が、それぞれきれいに10分前後開いているのにお気づきだろうか(最後のトライが少し余分だが…)。これらの時間は、得点にはつながらないながらも、見事に立教の時間だったのである。

 例えば14がボールを持つ。ステップで外にかわしそこから真っ直ぐに走る。押し出そうとする相手を見計らって、相手の外側に回りこみながらのリターンパス。クラッシュして相手に時間を与え、自分たちの空間を差し出してしまうのではなく、より遅いもの、小さいものであってもボールを放さずにいるにはどうすればいいかを考えたプレー。
 そして後半もやはりFW三列がチームを引っ張る。守っては相手の足にしがみつき、攻めてはバックスラインに入り、身を捨ててバックスへボールをつなぐ。バックスのフロントスリーは阿吽の呼吸でボールを前に運ぶ。立教はボールをつなぎ続ける。随所につい感じてしまう伝統工芸の香り。観客席も、深谷応援団でない、ただのラグビーファンたちが次第に立教を応援する空気になっていくのが分かる。

 ただ、悲しいことながら、力負けしているという事実は動かず、最後のところで攻めきれない。ターンオーバーを許すと深谷は一発で取りきってしまう。ボールを支配されている時間が長いので、ボールを持った時の集中力が増すのだろうか。やはり蓄積を持つチームは強い。
 
 立教が深谷ゴールを割れないのが切ないほど歯痒く、それにも関わらず、立教がボールを持つと、今、素晴らしい何かが展開しているのを目の当たりにしている喜びで胸がいっぱいになるのを止められない。これほどの大敗であるのに、喜びは最後まで途切れなかった。立教新座と言うチームが、戦術を持って、自分たちの戦い方を信じて戦っているのが見ていて分かったからだ。

 戦いとは、どうも、点数以外のところにも確かに存在してしまう。
 試合の前に、どう準備して臨んだか?
 試合中、自らの意図した戦いを諦めずに遂行し続けたか?用意したことが通用しない時、どう対応したか?気持ちを切らさず、時間中ずっと立ち向かえたか?
 負けを認めて全てを緩やかに放棄したりしなかったか?
 強者に挑む戦いにおいて、結果として接戦だったとしても、それが単なる幸運によるものであったなら、よい試合とは感じられない。対照的に、どんなに大差であっても戦いを一瞬たりとも止めない、そして、戦い続けるために「気持ち」以外の武器をきちんと用意してきているチームを、私は尊敬せずにはいられない。
 だから私はこの日の彼らに敬意を払う。そしてそのような試合を見せてくれたことに感謝する。

 試合後、立ち去りがたく、スタンドから最後のミーティングを見詰める。
 ご父兄方の応援団も本当に静かに見守る。三年生たちの言葉、新チームの船出への決意。ゆっくりと三年生たちの最後の時間が終わろうとする。
 輪が解けて戻ってくる監督に、父兄の一人が声をかける、「いいゲームだったよ」。監督が頭を下げる。父兄は続ける。
 「誇らしかった」。
 それは、ずっとスタンドで見守っていた全ての者の心を代表した言葉だった。
 いい試合だった。
 

 この一戦を見たことは、今年の私の宝物だ。

 
[PR]
by kefurug | 2007-12-15 01:51 | 高校ラグビー

とりあえず、非常に個人的な思いを書き綴ります。


by kefurug