青いバラ (長崎北陽台@2008 花園)

 パラダイムの転換。



 そんな陳腐な批評用語を久しぶりに思い出してしまうほど、私にとっては驚愕だった。
 長崎北陽台。

 残念ながら、そんな素敵なものがあったんだ、というときめきではない。だが、頭をガツンと殴られたような種類の衝撃。
 小さき側の者が密集を「武器」に出来るという発想を持てるなんて。
 そして、実際にそれで勝ちきることが出来るなんて。 

 様々な地区予選を見ていていつも考える。
 挑戦者は密集にどう対処すべきか。
 どんなに強い相手との戦いでも、ボールを持つ機会というのは結構ある。ディフェンスを鍛えてきたチームなら、相手のミスを誘うことはそれほど難しくはないからだ。しかし、ボールを持ち続けられない。花園の一回戦における体格差どころではない、比率で考えれば圧倒的に大きい相手FWの重圧に、ラックから球を出すのがやっと。出た瞬間、ディフェンスは前のめりに襲い掛かってくる。ボールキャリアは仰け反るようにして辛うじてボールを持つが、あっという間にターンオーバーされる。ラックを持ち堪えて連取できたとしても、とても得点にまではつながらず、最後は結局反則、あるいはターンオーバーで終わる。
 モールを止めるのも容易ではない。どんなに低くディフェンスしようと一度組まれてしまえば、押し切られインゴールを明け渡すか、崩して反則となってしまうか。
 ボールを持っていられないならディフェンスし続けるしかない。どんなに鍛えられたチームでも、体も心も参ってくる上に、点が取れない限り、その苦労が報われることは絶対にない。戦いぶりは次第に窄んでいき、いつか強者の思いのままに蹂躙される。

 つくづく思う。当たり前のことだが、得点出来なければ試合には勝てない。しかし、大きい相手から得点することがどれほど難しいことであるか。
 それでも勝ちたい。ただし、接点の強さ自体は鍛えたとしても、ディフェンスの回数を重ねて消耗することは避けたい。そして、相手になるべく邪魔されない方法を見つけ、素早く点を取りたい。
 …実は両者は矛盾している。ディフェンスの時間を減らしたいなら自分が攻撃する時間を延ばさなければならない。素早く得点する、すなわち攻撃の時間が短いのなら、それ以外の時間ディフェンスし続ける覚悟は必須である。しかも、力に優る相手のディフェンスを打ち破るには、二の矢まで完璧に放てるようにしておかなければならないだろう。必殺技は一つではなく、二つ要る。体も鍛えて、そこまで仕上げるには、時間という条件が厳しすぎる。

 長崎北陽台は、その矛盾を解消してしまった。しかも、逆転の発想を以って。

 小さい者でもモールで大きい者に挑める。大きい者のモールを止められる。耐えるだけの健気なモールなのではなく、相手が重くても(東海大翔洋)、強くても(リチャードを擁する仙台育英)、止めるだけでなく押し込める。
 ラックも連取できる。ボールキャリアを決して孤立させないようにすれば、反則は起こりようがない。ターンオーバーも不可能。こんなラックが組めるんだと、また衝撃を受ける。普通、ボールキャリアが倒れる時に、つい、「早く寄れ!」と無意識に思ってしまうが、北陽台に関してはそんなことを思う間もない。最初から寄っている。ボールは手から手へ渡れど、ラックのバインドの固さはそのまま。時にはラックのまま前進する(?)。
 それにしても「連取」という言葉が、これほど似合わないラックも他にない。モール状のバインドで足でボールを転がしているわけではなく、まさしくラックなのに、前進するのだ。大分舞鶴戦の解説の川村幸治氏の言葉が端的に驚きを表す。
 「普通ラックというのに前進はないんですけどね」 
 FW平均で10キロ近く重い相手に仕事をさせない。そして時間を支配する。

 これは、時間を支配してロースコアで戦うことを可能にする、鋭く速いディフェンスが60分機能し続けるから可能な戦いである。ディフェンスでどんどん前に出るタックルは健在、外まで回して取りきろうとする相手にも絶対に諦めず、追いすがる。敵を必ず止める。
 それが北陽台の戦いだ。作戦を遂行できる力をつけるために、鍛え抜かれ、長い道程の末に到達した場所。
 
 負けた伏見工戦、ディフェンスが機能しない時間が少し長く生まれた。そこを伏見は突いて、勝った。北陽台は敗れた。

 敗れても尚、彼らが誇った「形」は残る。
 諦めずに挑戦する価値はあると教えてくれた、魂の形も。だから、どんなチームも、どれほど自分たちが条件的に恵まれていなくても諦めることはない。考え抜けば、きっと戦う術が見つかるはずなのだ。
 
 青いバラでさえ、真冬の花園で美しく花開いたのだから。 
[PR]
by kefurug | 2008-02-04 23:28 | 高校ラグビー

とりあえず、非常に個人的な思いを書き綴ります。


by kefurug