濡れる赤 (伏見工@2008 花園)

  炎は緑を焼き尽くせず、冷たい雨の中に散る。



  つなぎ続けたボール、最後のパスが前にこぼれる。パスを放ったSO鈴鹿は、笛を聞いて泣き崩れた。  

 「美しさを追求して死ぬのは自由だがそれはもはやサッカーではない。」サッカーのオシム監督が倒れるかなり前にテレビのインタビューで述べていた言葉だ。
 死に至る美しさは、理に適っていないというだけのこと。それが突き詰めれば勝利への最短経路であるならば、本来なら美しさを伴うものでもあるはずだ。伏見にとっては、パスで抜く、展開することこそが勝利へと伸びる道なのである。

 高崎監督は決勝戦後、インタビューで答えた。「個人の力で来るチームには負けたくなかった。大きな宿題をもらいました。」(毎日新聞 1月8日)。
 しかし、東福岡の見事なチームディフェンスの前に、個に分断されたのは伏見工の方だった。

 試合終盤、攻め続ける伏見、守り続ける東福岡。互いに小さなミスも出るが、ボールは伏見がキープしている。それでも、攻めきれない。キャプテンの責任感からか、FB井口が突っ込み素早い展開のチャンスを失う。CTB12南橋も必死の突破を試みるが、ボールを生きた形で繋ぐことが出来ない。
 ブラインドサイドにディフェンスがいない。WTB14羽柴にボールが渡ればそのままトライ出来る、という、伏見工のためにあるようなチャンスですら、スクラムからNO8小山田がクラッシュしてしまう。羽柴はラックに入らざるを得ない。これは伏見のラグビーではない。

 
 宝物は大切に扱わなければならない。傷つくところに敢えて放り出しはしない。
 それなのに、粉々に砕かれるかもしれない場所へそれを曝してしまうことがあるのが、ラグビーだ。
 伏見工の宝物はー今シーズンの宝物は、間違いなく羽柴であるべきだった。

 井口(剛)、南橋。かのチームの選手とタイプは違うが、東福岡の才能軍団に劣らぬ才を放つ特別な選手。しかし、彼らが特別に見えないようにするべきなのが本来、「個で来るチームに負け」ないための戦いではなかったか。いや、特別に見えても構わないが、彼らの強さだけが目立つのではいけない。結果としてトライに結びつかなければ。
 自分はタックルを受ける。倒れる。出来れば複数からタックルを受けて倒れたい。タックルを受けた時にはボールはもう次の者の手に渡っている。ボールは生きる。選手は芝の上でたとえ死んでも。
 ただし、最後にボールが渡った選手だけは、絶対に生きてボールを運ばなければならない。だからこそ、全員でその一人を出来得る限り安全な状態に守ってあげるのだ。外まで回すことで、過程で敵を多く巻き込み、開いたスペースをWTBは駆け抜ける。止められもせず、触れられもせず。
 相手のDFを骨抜きにする。それが組織で戦うということだ。

 井口の独特なステップ。分かっていても止められない。バランスが悪くさえ見える長身が大きな歩幅で駆けていく。高校日本代表の肩書きに皆が納得する。
 問題なく点が取れる状態では目立たない。しかし、強い相手であると、「自分が何とかしなければ」という思いがかちすぎるのであろう、自分だけでボールを運ぼうとする。そして密集からボールが素早く出せず、伏見は攻撃のペースを失うのだ。ラック。時間がかかる。折角畳んで寄せたディフェンスはまた拡がり、フィニッシャーのための道を塞ぐ。宝物は踏み潰される。

 萌芽は既に京都府予選決勝から現れていた。前半を終えたときの高崎監督のコメント「井口がリズムを崩している」(試合のTV放送、実況より)。
 花園では、二回戦、三回戦、準々決勝、準決勝と、東福岡と対照的に全てロースコアながら、きちんと勝利を収める。井口は突破役として貢献するも、チームはWTBで取る、あるいはFWのサポートプレーヤーが取る。井口の独り舞台、というシーンはなかった。

 最後の試合で何かが狂い始める。前半、伏見は回しても回しても得点にはつながらなかった。後半、早々に自らの個人技でトライを取りきった主将は、責任感と自信からか、緑の壁に向かって突進を繰り返す。
 キャプテンだけではない。大外まで「いい形」で回らないことに焦るそれぞれが、それぞれ突破を試みる。そして撥ね返される。強靭な緑の戦士たちに。攻撃は続く。続くが、壁は炎の勢いを殺ぎ続ける。そのまま、時間が来た。
  
 後一歩のところで自分「たち」を信じ切れなかった伏見工。
 その猛攻を防ぎきるのに「この一年の日々」を確認した東福岡。おそらく、ほんの少しの「信」が勝敗を分けた。そして皮肉にも伏見は僅かに「信」が足りなかった。

 本来なら「超高速展開ラグビー(MBSアナウンサーが連呼していた)」のタクトを振るはずだったSO鈴鹿。美しいフラットパスを何本も投げた。しかし、自らが敵のプレッシャーを完全に吸収し切れないままに投げられた球は、受け手へもディフェンスを集中させるものでしかなかった。

 土壇場で「信」を失わぬために何が足りなかったのか。高崎監督と新チームはそれを探して、来年のこの日、同じ場所に立つための戦いを始めるのだろう。
 

 個人的に、今大会のMVPに挙げたいCTB南橋。美しいタックル。力強い突破。そして、さりげないがパスがいい。そのパスでもっと、もっと他のサポートプレーヤーを走らせるところを見てみたかった。
 それでも、素晴らしい戦いだった。東福岡フィフティーンともども、称えられるべき選手たちだ。 

 付記
 伏見工の選抜での戦いについてはこちら
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by kefurug | 2008-01-22 23:54 | 高校ラグビー

とりあえず、非常に個人的な思いを書き綴ります。


by kefurug