今年のキャプテン 4

 選手が倒れる。監督が救急箱を持って駆けつける。



 しかし、それは本部席にいた他校の監督だ。
 今日、このチームには、一人の大人の姿もない。アップの段階から全てを選手自身でこなし、試合中、ベンチで見守っているのはこの春高校生になったばかりの一年生たちだけである。会場まで連れてきた大人はいるのかもしれない。しかし、ひどい雨の中、芝の上で選手を支える存在でありうる監督も、顧問の先生も、そこには存在しない。
 チームは81-0の大差で敗れた。


 栃木県立宇都宮高校、県で一番の進学校である。正直、宇高以外のチームで誰も大人がいなかったら引っくり返って驚くが、この学校であれば「そういうことはあり得る」と納得させられる、伝統校の、学生主体の空気をまだ色濃く残している学校である(しかし、万が一事故などあったら保険などはどうなっているのだと要らぬ心配をしてしまう)。
 しかし、それは宇高らしいエピソードとなりえるかもしれないが、実際の勝負の場においては選手たちが非常に厳しい状況に立たされていることを意味する。


 以前少し書いたが、監督は市内の中学の先生のようで、平日はキャプテンを中心として練習をこなすしかない。進学校であるため基本的に三年生は春で引退。この春までの一年間、チームを率いてきたのはSHの大野和寿キャプテンである。
 彼が一年生の時は、部員不足で合同チームでの大会出場だった。
 地元UHF局で、毎年花園予選決勝を中継する番組内で、県大会の総集編として様々な学校のトピックについても採り上げる。合同チームから復活し、部員17人で大会に臨む宇高のキャプテンも、インタビューされている。 
 
 「僕らのようなチームは一学年で15人集めるのは難しいので、数名欠けると致命的。そういうところが大変ではあります。」
 「人数が少ないのでやりたい練習が出来ない。」
 「部員がお互い励ましあってやっているので、(ラグビーを)辞めたいという気持ちにはならないですね。」 
 大野キャプテンが昨秋答えていた言葉たちである。


 春の県大会。対佐野日大戦、決して見事な戦いではなかったが、相手の拙攻にも助けられ、45-0と大勝。試合後、長いことをミーティングをしていた宇高だが(この日は大人が二人ぐらいいた)、最後まで熱心にいろいろ監督(と思しき人物)に質問、確認していたのがキャプテンだった。
 次の試合、監督はいたものの、チームは国学院栃木に8-163で敗戦。これだけの結果になると、一人の力がどうこうではない。おそらく、力を出し切るというよりも、どう出していいか分からないまま試合が終わってしまっただろう。しかし、インゴールまで相手を追いかけタックル、ノックオンを誘いトライを防いだり、終了間際、タックルからターンオーバーに成功するなど、蟷螂の斧ではあっても、キャプテンは意地を見せた。
 そして、選手たちだけで臨んだ最後の試合、対作新学院、タックルやラックでの接点、スクラムなど、その一局面を取り出せば互角に戦えるにも関わらず、全体としてトライに繋げる、取り切る力が不足し、完敗を喫した。


 彼は、おそらく日本中にたくさんいるだろう、状況と戦っているキャプテンの一人である。
 ラグビーをするのに恵まれた環境ではない。それでも、ラグビーをすることを選び取る。
 そうして土を噛み、ラグビーを続ける多くの選手たちが、私たちが愛する高校ラグビーを支えてくれているのである。


 秋、高校生としての彼の勇姿を芝の上で見られることはもうないと思うけれど、彼と、苦楽を共にしたチームメイトにとって、ラグビーが少しでも大切なものであり続けてくれるように願わずにはいられない。
合わせて、全ての選手たちが少しでも恵まれた環境でプレーできることも。
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by kefurug | 2008-07-17 22:50 | 高校ラグビー

とりあえず、非常に個人的な思いを書き綴ります。


by kefurug