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魂を (埼玉県大会決勝)

 チケットを買うために観客が列をなしている。



 さすがに県立一の進学校、浦和の集客力は伊達ではない。
 
 
 ’05の花園初出場以外、ずっと決勝で正智の壁に遮られてきた深谷フィフティーン(不思議と、花園にいった年は準決勝で正智と対戦、引き分けで抽選による決勝進出だった)、戦わずして、トーナメントから正智も熊工も去ったことに何を思う。
 今年、埼玉四強(とりあえずこの三年の四強は正智、深谷、熊工、浦和と考えてよいだろう)の中でいずれに対しても勝つことが出来ずにいたのは浦和。準々決勝における番狂わせを演じたのは彼ら自身ではないが、それによって開かれた道を、準決勝をものにして進んできた。
 決勝の舞台。
 雨が落ちてきてもおかしくないような薄曇りの空の下、選手が出てきただけで観客が沸く。熊谷名物の風は、この日はそれほど強くない。

 
 前半、深谷のキックオフ。

 開始早々、勝利を摑むために真っ直ぐに手を伸ばす深谷。効果的なキック、早い出足のチェイス。浦和陣22mライン上で深谷ボールのラインアウトを得る。経験値においてやや上回る深谷が、機先を制し、主導権を握るかに思われた。
 しかし、その手を振りほどく浦和。ゴール前に迫られても、たとえ反則を取られても、決して諦めずにラックサイドを黙々と守る。あまつさえ、ターンオーバー。キックを深谷陣深く蹴り込み、難を逃れる。


 BKで回そうとすると浦和の防御の前にミスが出る深谷は、キックでゲームを組み立てる。浦和のディフェンスラインが上がっているのを見越して10が冷静に後ろにキックを落とす。安定した試合運び。しかし、ゴール前では浦和の粘りにトライを挙げることがなかなか出来ない。
 一方の浦和。この日、「負けられない」という重圧から解放されたのかもしれない。ボールを持てば、思い切り、迷いなく前へ。ラインアウトからの見事なゲインや、すがすがしいBK陣の走りは見るものの目を引くが、相手陣深くまで入り込むには至らない。


 深谷がハイパントを上げ、追うもノックオン。そのこぼれ球を拾った浦和はBKに回し、攻める。14が走りゲイン、左外が空いたが走りきれないままラック。そこで深谷がターンオーバー。ボールを受けた10がディフェンスラインの裏に出かかる。抜けきれずキック。これを浦和BKと深谷11が追う。11がもう一度キック。浦和がうまく拾えないままボールは転がり、追いついた11が押さえてトライ。時間は20分、遂に深谷が先制。10のゴールは決まらず、5-0となる。深谷のトライゲッター篠田が決めた。


 この日の浦和の「思い切り」はこれくらいでは崩れない。11が深谷防御網を抜きにかかる。捉まりラック。ここから10が蹴り込んだボールは深谷陣深くに転がる浦和のプレッシャーに深谷は横に蹴り出すしかない。深谷陣ゴール前5メートルのところで浦和ボールラインアウト。
 キープしたところからモールを組むが、押せない。何とか強引に押し込んだところでBkに出すが、ラックでハンド。反撃ならず。

 更に、相手のキックをキャッチしたところからもう一度浦和11が攻めるも、早いディフェンスにノットリリース。
 深谷は、キックが味方に当たってしまう。そのボールを拾った浦和、攻めるも深谷がターンオーバー。ここからモール→ラックとなったところで10がキック。これを浦和が処理に手間取り、タッチに蹴り出したがあまり陣地を戻せない。時間はもう30分。
 このラインアウトで浦和がペナルティ。深谷はPGを選択。左中間、浦和陣10mと22mの間だったが、10のキックは右に逸れていく。ドロップアウト。
 浦和がFKを蹴り込む。ノータッチ。深谷がタッチに出して、前半終了。


 後半

 浦和が攻め立てる。11が強気に突っ込む。8が行く。深谷の反則も挟んで深谷陣22m付近で攻撃を続けるのだが、そこから先に行けない。15がボールを持ち込んだ状態がモールパイルアップ(サポートが周りにいたため?)という判定だったのか、深谷ボールのスクラムと変わる。
 このスクラムから左ブラインドを深谷11がゲイン。ラックから10がうまく裏にキック。浦和は横に蹴るしかなく、浦和陣22m上で深谷ボールのラインアウト。キープ→モール後のラックで浦和に倒れこみの反則。ここから3がすぐ行きラック。ボールを受けて1がトライ。11のゴールは失敗。10-0。後半が始まって8分。

 
 浦和にチャンスは訪れるのだが、焦りが出て来つつあるのか、ボールが手につかず、攻め切れない。 
 深谷も、ボールを持っても浦和の堅守に阻まれなかなかトライに至らない。
 深谷がキックで浦和陣22m付近まで入ったところで、浦和がペナルティ。ゴール正面。ここで深谷はPGを選択。10が決め、13-0と確実に点差を広げる。
 残された時間は10分。

 
 浦和は、ボールを持ったところで何度かディフェンスも空くのだが、何でもないところでボールをこぼしてしまったりする。試合状況そのものが重圧となって彼らにのしかかっている。
 この日、深谷の確実な戦いの鍵となったキック、またも蹴った後の素早いプレッシャーに追い込まれる浦和。横に蹴り出すしかない。


 深谷はこのラインアウトをキープしモールで押し込む。ゴール前でラックとなったところで、浦和2がターンオーバー。10がキックで逃れようとするところを今度は深谷がナイスチャージ、惜しくもマイボールには出来ず、拾った浦和がすぐに攻める。キック。これを深谷3が足で止めた後拾えずノックオン。
 残り時間は2分。
 浦和陣10m付近での浦和ボールスクラムから、15がゲイン、しかし攻め切れない。ラックで深谷がターンオーバー。しかし、その後ノックオン。もう一度浦和ボールスクラム。
 時計はもう30分。ロスタイムは1分。
 スクラムから左に展開、15がゲインし、ボールは11へ。スペースが空いている。ここしかない、という決定的な場面だったが、トライには至らず、タッチに押し出されてしまう(11は試合中に怪我してしまっていたらしい)。
 深谷がラインアウトをキープ、タッチに蹴り出すも、まだ試合は終わらない。深谷陣22m内側で浦和ボールのラインアウト。右に展開、14が走る。
 届かない。
 最後は11がボールをこぼしてしまったところで、試合終了の笛が鳴った。 
 愚直な浦和ラグビー、堅実で鮮やかな深谷ラグビーの前に散る。
 



 深谷はやはり落ち着いていた。スコアは接戦だが、深谷には余裕があるように感じられた。司令塔とエース、活躍すべき人が活躍し、FWでトライも取り、すっきりした勝利と言える。
 ただ…。
 今年の深谷はBKのチームだとずっと思っていた。BKのチームでありながら、どうしても仕留めの部分が何故か弱いと。
 今までの大会でもっと晴れやかな結果が出なかったことに対して、どうしてなのだろうと疑問をずっと抱いてきたのだが、正直この試合を見てもそれは解消されない。このチームでBKで点を取らずにどうするんだ、という気がしてならないので、その点においての方法論を指導陣が持っているのかどうか…(花園まではまだ時間がある)。ただ、この日見せたような手堅い戦いで確実に勝ちあがるという選択肢もある(ターゲット次第)。どんなチームになって花園に現れるのか楽しみである。


 浦和、間違いなく今年のベストゲーム。見られなかった準々決勝、準決勝だったが、接戦とはいえ(いずれも10-0)、進修館、早稲田本庄相手に無失点で勝ち上がってきた防御は確実に力を増していた。
 そして涙が出るようなラック。小さいFWたちが必死にボールをキープする。ターンオーバーも一度ではない。
 しかし、肝心なところでのラインアウトのミスや、ここぞというところでは深谷FWに密集を支配されるなど、少しの差が積み重なって最後、届かなかった。BKでどうしても抜けなかった日々、何か工夫が足りないからなのでは、とずっと思っていたが、この日の割り切ったシンプルな攻撃はそういう疑問を吹き飛ばして何故か見るものを納得させてしまう力があった。実はHB団のところではパスも工夫されていて、惜しむらくはやはりハンドリングエラー。

 
 
 深谷高校は花園へ。
 浦和高校の面々はおそらく受験勉強に入る(去年の渋谷君ですら推薦でないようだから、きっとみんな勉強で大学へ…)。
 もちろん、全員がラグビーを続けるわけではないだろうが、今年一浪して東大、慶應に入った’06HB団のように、頑張って勉強して大学でラグビーを続けようとする思い、浦和に限らず、進学校でも、あるいは進学校でない学校の生徒でも机にかじりついて勉強して大学に入るそういう思いが今の大学ラグビーにはとても大切なものなのではないかと感じている(早稲田→釜石の菅野君もそうですよね 先々月号(?更に前?)のラグビーマガジンの「DAI HEART」にもそんな文章が。大学の試合を見ていると、つくづく、失礼ながらちょっと腐ってるんじゃないの君たち、と突っ込みたくなること多し)。
 今年のフィフティーンたちも、続けたいなら臆せず飛び込んで、どんどんそういう思いを大学ラグビーに吹き込んでほしい
 ラグビー推薦なんぼのもんじゃい!という魂を。


 最後に、メンバーを…。今回は最後がいいなあと思って…。
 
 埼玉県大会決勝@熊谷Aグラウンド レフェリー新野
 
 深谷
 1塚越 2鈴木 3石平 4山田 5橋本 6木暮 …とここまで書いて、試合に没頭してしまい、ここから先を書き忘れていたことに今!気づいた。分かるのは10正田 11篠田 ⑬佐藤
 確認出来次第、後で追加します。すみません。

 浦和
 1浅子 ②明畠 3癸生川 4大谷 5酒井 6井上 7杉本 8粕谷 9橋本 10山崎 11加賀谷 12坂下 13菅原 14高荷 15富田

 いずれも○はキャプテン 



 この試合の埼玉新聞の記事はこちら。両監督の言葉が印象的です。
by kefurug | 2008-11-20 00:00 | 花園予選’08

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by kefurug