戦士たち

 濃いピンクの寒椿、根元に霜柱の踏まれた跡がある。



 グラウンドの周りにはあまり人がいない。辛うじて存在する控え選手、それでもいてくれる女子マネ(茨城は共学文化だ)、茨城協会の役員、そして、何故か残って観戦しているつくば秀英の選手たちが数人。
 後は選手たちが走っているだけだ。


 時折、犬の散歩の男性が愛おしそうな目をして立ち止まって眺めていく。あるいは、ウォーキングの夫婦、夫が「前にボールを投げちゃいけないんだよ、だから、前に運びたい時はキックを使って…」と説明しているのに、妻が相槌を打ちながら通り過ぎていく。
 それも僅かな間のこと。どちらかのチームの保護者が片手でも余るほどの人数、確認できるだけで、やはり誰もいない。


 靴底くらいの高さはものともせず、寒さは足元を這い登ってくる。足首から下が感覚がなくなりそうなので、その辺りでちょこちょこと足踏みする。霜柱は解けないまま再び凍りそうだ。
 帰ってもいいのになあと我ながら思う。
 でも、後10分、後5分、後…。結局、最後の笛が鳴るまで離れられなかった。


 
 立ちそびれてしまった。球技場の観客席で周りの人たちが一斉に引き上げを開始したので、動くに動けないまま、次の試合は始まった。 
 新人戦、合同チーム 磯原・水戸一vs水戸農・緑岡・茨城東の試合。普段、ここまでなかなかきちんと見られないので、見て帰ることにする。
 
 
 前半。
 あっさりと磯原・水戸一が先制。ディフェンスの裏に出てからパスをつないで順目で外勝負。理に適った戦いぶりを見せる磯原・水戸一が続けざまにトライ。試合の趨勢は決まる。この両校は春の大会にも合同チームで参加しており、チームとしての息が合っている。体もこちらの方が大きい。HB団がちょっと不器用なのが玉に瑕というところか。


 水戸農チームがただ手を拱いていたわけではない。タックルには行くのだが、止めきれないのである。この日の戦いを見る限りではまだダブルタックルというところまで戦術が辿り着いていないのだろう、一人で一人を止めに行くが、抜かれる。
 とりあえずBK陣の体が小さい。小さいなあと思いながら中でもあの選手は…と見ていたある一瞬、背中に書いてあった文字は4。
 え?
 間違いではないかと思い、今度は改めて双眼鏡を覗く。確かに4だ。目測で身長は160センチそこそこくらい、実際と印象がどれだけ違うにしても、170には届かない大きさだろう。
 おそらく、日本国内で最小級のLOが一生懸命走っている。ラインアウトではジャンパーではなくリフターを務める。一番後ろにちょこんと並んだその姿。
 正直、この選手がLOではチームを作るのは相当に厳しいはずだ(寧ろ、厳しいという状況を通り越している)。何しろ合同チーム、彼を4番にするだけのチーム事情というものがあるのだろう。コーチが普段どこにいるか、どうやって練習するか、それによって対応しやすいメンバー編成になっているだろうことも想像される。
 しかし、何か事情があるにせよ、ないにせよ、彼は4番で、今フィールドの上に立っている。4番であること、ラグビーを続けてくれている理由、どんな思いが彼の心にあるのだろう。


 もう一人の小さき者、13番。こちらも、目測で身長160センチくらい(もうちょっとだけ大きいかも)。しかし、ボールを持つとなかなか渋い動きをする。ただ、まだ抜ききれない。タックルに行っても撥ね飛ばされる。それでも逃げずにタックル。正面から真っ直ぐに相手に刺さる。


 彼らがどうしてラグビーをすることになって、この場に立つことになったのか、私が知る術はない。しかし、いろいろな困難があるだろうに、何とかそれをくぐって、この場に立っていてくれることに感謝したいような気持ちになる。
 試合がどんなに劣勢でも、水戸農チームの監督(コーチ?)は暖かい声を掛けることを忘れない。「ナイスディフェンスだー!」「ちゃんと出来てるぞ!」 確かに、そうなのだ。やられてもやられても、必死にタックルに行き、ボールを持てば何とか攻めようとする選手たち。
 普通の基準からしたら、もしかしたら少し甘い言葉なのかもしれない。それでも、この小さな戦士たちの精一杯にはふさわしい報酬のように思える。
 
 ラグビーを見せてもらった。


 
 胸はいっぱいなのだが、信じられないほどの寒さ。日が当たっているのに、スタンドの足元のコンクリートは全く暖まらない。前の試合を観戦していた女子マネたちが震えていたのも分かる。自分で言うが、試合に集中している時の私の寒さへの耐性はかなりのものなので、余程寒いのだ。
 どうしても、どうしても、このままではもたないと思い、前半が終了したところで退出。戦いを見届けたかったのに無念である。


 
 もう一つの試合が、サブグラウンドで行われている。こちらも合同チーム。土浦工・江戸川学園取手・藤代紫水vs取手一・牛久・土浦一。後半が始まっている。こちらは取手一チームの11番の大きさが目に付く。駐車場に行くには通り道、少し、見ていこうと足を止める。
 見ている10分足らずの間に取手一チームが2トライ。WTB11が走りきる。キッカーも11。「楽に蹴りたかったら真ん中に(トライを)決めろよ。」とチームメートの声。
 一方的になるのかと思われたがここから土浦工チームが隙を突いて盛り返す。粘って粘って攻めた末にノットリリース。駄目か、と思ったがもう一度何とか攻め込んで、最後は2がトライ。
 自陣に戻りながらある選手が呟く。「後、4トライ。」前半から合わせての点差に対して。時間が厳しいことは確か。それでも、「頑張るぞ!走れ!」 
 その声に思わず、「頑張れ!見ているから!」と心の中で応えてしまう。
 彼らにとって「試合」はどのような意味を持つのだろう。大切な、大切な時間であることは間違いない。気持ちと気持ちがぶつかり合う姿に、思わず帰るのを諦める。

 
 そして、冒頭の仕儀に至る。相変わらず寒い。本当に凍えているのだが、立ちっぱなしで見ているので、動けることでぎりぎり気を紛らわせられる。


 互いに攻めても点が取れないまま、試合が終わった。
 

 「チーム」の気持ちと、合同チームでも出場させてやりたいという指導者たちとの思いによって支えられた試合。特別に美化する気はないが、ラグビーは15人でするもの、15人いるからこそ出来るものだということを思い出させてくれる。
 こういうものには素直に感動するしかない。
 ラグビーをしてくれて、ありがとう。
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by kefurug | 2009-01-12 23:32 | 高校ラグビー

とりあえず、非常に個人的な思いを書き綴ります。


by kefurug