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空蝉

 薄曇の空である。



 今年の夏を象徴するかのように、この日も太陽は顔を見せようとしない。しかし、今日はその方がいい。
 30人の選手たちが走り、ラグビーが行われている。芝の上ではない。普通の校庭の、転べば痛そうな砂の上。
 浦和高校のグラウンドである。


 それぞれに夏合宿をくぐった(あるいはくぐっている途中の)三校が、三つ巴の練習試合を行うのを見る機会を得た。
 最初は浦和ー松山、25分1本。開始早々攻め込み、モールでトライを挙げる浦和。その後も接点では完全に浦和が圧倒し、試合を優位に進める。春の県大会では34-0で浦和が勝利を収めている顔合わせであることを考えれば、当然と言えるのだが、スコアが開かない。
 
 試合を沢山見ていると、挑戦者のチームは、防御からリズムを作るようになっていることが多いので、自分たちが攻めて主導権を握っていく側に立った時に意外と脆いことが多いように感じる。浦和のように、挑戦者でもあるが、例えば県大会準決勝までは強者でもある、といったようなチームは。強者としての試合に実は苦労する。
 この日も、接点で割とあっさり圧倒出来てしまうからなのか、「ここから攻める」「ここで決める」というところで急にちぐはぐな部分が顔を出す。無理に突っ込んで孤立したり、不意に無理なパスをしようとするので受け手がノックオンをしたり。陣地もボールも一方的に支配しながら、ぽろぽろと隙がこぼれる。
 そこに松高の気持ちが覆い被さる。ゴールラインを背にしても、防御することを諦めない。しかし、そこから反攻でトライを取りきるほどの攻撃力が残念ながらないために、もどかしい膠着状態のまま時が過ぎる。

 終了間際の22分、ようやく浦和が相手ペナルティからすぐさま攻め、トライ。ゴールは決まらなかったが、点差からいえば辛うじて浦和が逃げ切る。


 次は伊奈学園が浦和に挑む。こちらは春の県大会一回戦で、進修館に35-5で敗れている。こちらの試合では、接点での攻防を見ていても、もっと浦和は圧倒できてもいいはずなのだが、やはり苦労する。5分にやはり相手ペナルティからトライを挙げた後、しばらく得点に結びつく攻撃が生まれない。
 関東新人大会から選抜を経て得た自信から、挑む側ではなく、互角、あるいは受ける側へとぼんやりとしたセルフイメージの転換は既に行われているかもしれないが、深いところで心がまだついていっておらず、だから体が思うように動かないのではないか、と思う。どこか、全員で、ひたむきに、という空気が薄れているように見える。 
 結局、1トライを加えただけで、まだ「この形で取る」という「必殺技」は示されずに終わった。練習試合とはいえ、浦和が花園の芝に立つことを本気で狙うなら物足りない結果といえるし、花園予選への興味という意味では、短い時間かもしれないが松山や伊奈学園が最後まで防御を諦めない様を見られたことがやはりよかった。


 続いて、松山ー伊奈学園の25分1本。
 国体予選の結果だけ見ればどちらが強いとも言えないのかもしれないが、ここ二年くらいの成績を考えれば松山の方がやはり強のではないだろうか。
 しかし、これも単純に圧倒という風にはいかない。その辺りが何となく面白い。8分、松山がモールで先制。その後、畳み掛けられずにいる中、ある選手が叫ぶ。
 「まだまだ元気!!」
 
 とても小柄に見える伊奈学園の選手たちは、見る限り、経験者は多くなさそうで、それでも真っ直ぐに「ラグビーをしよう」としていることがこちらの胸に伝わる。

 松山がラインアウトからのモールを起点に、一旦9が持ち出したところを8にリターン、虚を突かれた相手の真ん中を抜いてトライ、という、なかなか印象的な追加点で12-0と勝利を収めた。

 B、Cの試合もあったのだが、今回は割愛させていただく。



 高校生の試合というのは、本当に気持ちの部分が大きい、とまたしても実感する。圧倒していながら取れないもどかしさ、自分たちの何かが相手に通じることから沸いてくる勇気、そういうもののせめぎ合いが更に選手たちの体を動かし、また新たな試合の局面を作っていくのが見えるような気がする。
 校庭という試合会場は、芝でなければ生徒にとっていいものではないが、観客にとっては何よりも選手たちを近くに見られる贅沢な場所である(雨の日は辛いが…)。


 ふと見上げた楠の葉裏に、驚くほど下がっている空蝉。足元に目を転じれば、それらが地中から這い出てきた穴が幾つも開く。
 夏に咲き誇る命の象徴。
 それらを育んだ地面の上で、秋に花開くことを目指して育まれる命たち。
 力を振り絞る夏が過ぎる。
 
by kefurug | 2009-08-10 23:23 | 高校ラグビー

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