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「絶対」の精度 1 (秋田県大会準決勝 その1)

 高校生が配っているビラには、秋田ノーザンブレッツのホームゲームのスケジュールが印刷されている。



 一度来てみたかった秋田八橋球技場の芝は、センターサークルの辺りが少し剥げているものの、やはり美しかった。
 秋田国体のインターネット中継や、今までの秋田県大会決勝の録画でずっと見てきたバックスタンドの光景を向かい側に見る。画面で見たのと同じように、男性がゆっくりとフェンス沿いを移動していく。北国特有の高い硬度の空気、透き通った秋晴れの日曜日である。


 花園予選 秋田県大会準決勝 
 第一試合 秋田中央ー男鹿工

 今年度、これまでの県内公式戦の結果は、新人戦では秋田中央が準優勝、春の県大会では秋田中央が優勝している。東北大会の結果も併せれば、この二年花園への連続出場を果たしている秋田中央の優位は動かないと考えられる。


 秋田中央のキックオフで試合開始。キャッチしたところから攻撃に移った男鹿工はCTB(だと思われる。うまく見えなかった)が一気にゲイン、ゴール前でラックとなったものの、受けた15(だと思う)がギャップを縦に抜けてノーホイッスルトライ。13のゴールも決まり、7-0とする。
 5分、男鹿工は敵陣10mラインより外側でもらったペナルティでゴールを狙う。距離はあるものの、ほぼ正面、風も追い風だったが、惜しくも(スタンドからは溜息がこぼれた)、外れる。7-0。
 7分、同じような位置でまたも秋田中央がペナルティ。もう一度狙うかと思ったが、男鹿工は今度はタッチキックを選択する。ラインアウトはキープしたものの、攻撃に移ったところでノットリリースの反則。
 男鹿工とすれば、勢いに乗じて、試合開始の「虚」が去らない内に追加点を挙げたいところだったが、FW戦のまともな力勝負では秋田中央に分がある。

 少し後、男鹿工が長いキックを蹴り込む。落ち着いて処理した秋田中央15が蹴り返した時、男鹿工4が飛び込んだ。
 思ってもみないようなチャージ。
 鈍い音とともにボールはインゴールに向かって転がる。必死で追う両チーム。きわどいタイミングだったが、チャージした張本人がどうしてもインゴールでうまくボールが手につかず、トライとはならない。それでも、敵陣でのマイボールラインアウトをキープ、一旦受けた9がスローワーの2にリターンそこから更にブラインドを11へとつなぐなど、この挑戦者が、しっかりとした心意気と戦う術を手にしていることは、はっきり見えるのだが、それが二本目のトライになかなか結実しない。
 

 秋田中央は落ち着いている。確かに虚は突かれたが、ここまでの戦いで、接点、ディフェンスにおいて自分たちが勝っていることが分かっているからだろう。
 中盤付近で相手をノットリリースに追い込むや、速攻。ゴールラインを一気に越えたかに見えたが、最後のトライする際にノックオンがあり、トライとはならない。
 それでも、速攻に皆がきっちり反応し、乗じるべき機を逃さず一瞬にして流れを引っくり返す様は、近年このチームが確実に経験値を積み上げてきたことを示している。
 自陣深くに戻された男鹿工は蹴り合いに負ける。17分、秋田中央はラインアウトから一旦ラック。10が受けたところでタックルを外し防御の裏に出る。最後はサポートの9が受けてトライを決め、コンバージョンも9が蹴り込み成功。7-7となった。
 ここまででも、秋田中央10がボールを持った時にはうまく間合いを外してゲインする場面が散見されていたのが、ここに来て見事なトライとなる。


 ここから更に秋田中央が優位に立って試合を進めるが、男鹿工必死のディフェンスにゴールラインをまたぐことは出来ない。前半残り10分くらいというのは、挑戦者側がそれまで張り詰めてきた分、がくっと体力、気力が落ちることが多い時間帯である。更なる追加点を挙げるために中央の選手が突進する。キャプテンNO8が実に力強い。そして、彼の背中、走りには責任感が強く漂っている。好漢。一人や二人では彼を止められない男鹿工の選手たちが、ゲインを許しながらやっと止める。それでもボールは継続される。またタックルする。ゴールラインに迫られても諦めずに飛び込み続ける。何とか防ぎ切ったラックからFW陣がうれしそうに起き上がってくる。

 いい試合である。正直、もっと簡単に勝負のつく展開になるかと思っていたが、先制トライだけでない男鹿工の頑張りに、間違いなく会場全体が喜んでいる(秋田中央の関係者だけは苦い思いだったかもしれないが)。

 
 終了間際、男鹿工のキック処理のミスにより、男鹿工ゴール前で秋田中央ボールのスクラム。絶好のチャンスだったが、秋田中央はトライを取りきれず反則。タッチに蹴り出してもまだ時間がある。ここで男鹿工は何を思ったか、このラインアウトから自陣深くであるにもかかわらず展開する。案の定、ペナルティを取られるが、中央も焦ってオブストラクション。ここでようやくハーフタイムとなった。


 後半。
 接点で秋田中央が勝っていることがよりはっきり現れ始める。秋田中央は、11が素晴らしいハイパントチェイスを見せ、男鹿工を自陣から進ませない。しかし、一気にトライが取れそうで取れず、男鹿工22mとゴールラインとの間で必死の攻防、秋田中央が組んだモールであっさりと男鹿工5がターンオーバーしたり、どこか秋田中央が完璧でない様子も垣間見える。
 しかし、根競べも互いのミスで状況が動く。秋田中央はペナルティをもらうが、これがタッチを割らない。男鹿工が一息つくか…と思ったところで、これを男鹿工14がノックオン。秋田中央のスクラムとなるのであった。
 このスクラムから、秋田中央は右オープンに展開、10→2でラック→10がトライを決める。コンバージョンも決まり、14-7。後半12分にようやく秋田中央がリードを奪う。
  
 17分、秋田中央は、男鹿工ゴール前5m付近でPGを狙う。左のポスト辺りからのキックは決まり、17-7。

 順調に行けば試合を決めることの出来る次の攻防の中で、秋田中央は敵陣に入っていながらペナルティの連続で一気に陣地を戻される。ペナルティのたびに攻め続けているうち、男鹿工14が外に余る。絶好のチャンス、だったのだが、WTBはタッチに押し出された。
 しかし、このタックルがハイタックルとされ、男鹿工は更にクイックで攻める。攻めるのだが…ラックで中央7が見事なターンオーバー(きれいに絡むのが双眼鏡でよく見えた)、10にボールは渡り、蹴られたその時、またも男鹿工が(今度は6)見事なチャージ。インゴールへ必死に追うのだが、これもどうしてもきちんとグラウンディングすることが出来なかった。キャリーバックスクラムは男鹿工ボールだが、持ち込んだラックでノットリリースをとられてしまい、どうしても勇気が得点につながらない。


 28分、秋田中央はスクラムからのハイパントを起点に、15がゲイン、最後はFW(だと思う。アナウンスを聞いたのだが、いろいろ考えていて記録もれ。もしかして、CTB?)ゴール決まり、24-7。
 最後の最後、中央は自分のペナルティに対し、レフェリーに何か言ってしまう。男鹿工は最後の得点機を得て攻めるが、やはりまともな形では秋田中央の防御を破ることは叶わない。ノットリリースで、試合は終了した。



 チームの総合力としては秋田中央が勝っていたと思う。攻撃でも防御でも、まともに渡り合う部分では秋田中央が局面を支配していた。
 しかし、秋田中央はもっと大胆な展開ラグビーが持ち味だったような気がする。花園に出ていない時とか、花園一年目はそうだったはずだ。何だかだんだん普通の強いチームみたいな戦いになってきていて、だから逆に男鹿工のひたむきな防御にかかって差が開かなかったのではないだろうか。横にがんがん振ったらどういう展開になっていたのか見てみたい気もする。
 チームカラーは真面目で好きだ。だから余計に昔の無謀なまでの展開ラグビーが今見てみたいと思うのは、多分わがままなのである。
 記事にはうまく入らなかったのだが、SHが攻守ともに素早い反応で大きな働きをしていた。


 逆に、男鹿工は、しっかり戦ったと思う。守って守って、チャンスは少なくてもそれをものにする。それが、挑戦者が勝つための「絶対」条件である。「守って」はよかった。防御の裏に出ることは出来なくても、勇気あるチャージ(記事中のトライに関係する2本以外にももう1本(ちなみに12))でチャンスを作った。しかし、目の前に降りてきた宝物をきちんと手に入れることが出来なかった。「絶対」をきちんと完成させることが出来なかったのが、もっと競った試合に出来なかった原因である。
 挑戦者の側に、道はより険しい。だから、トライを挙げるところまでいかなくてもよくやった、と言ってあげたい。でも、だからこそ、「よくやった」で満足するのではなく(もちろんそれでもいいのだけれど)少しだけ必死に、少しだけいろんなことの精度を上げたら、きっともっと素敵なものが見えるよ、とも、言ってあげたい。
 そんないろいろなことを考えさせてくれる挑戦者だった。いいチームだった。


 
 <おまけ 1>
 本当はメンバー表をつけるべきなのだが、開始間際に会場に入ったので、この試合のメンバーのアナウンスが聞けなかった。ハーフタイムに、と期待していたら、「車の移動をお願いします。」のみで、メンバーをアナウンスしてくれなかった↓ということでメンバーはあまり分からない。秋田中央に関しては、決勝を書く気になったら(試合を見てみないと分からない)その時にまた改めて付け加えるとして、男鹿工についてちらっと。
 キャプテンが12谷史哉。名前の雰囲気から「これは去年の秋田中央の選手(12谷直哉)の弟ではないだろうか。」と思ったらやはりそうだったらしい(チラッと調べた)。体を張って引っ張るタイプのCTB、またどこかでプレーする姿を見られるだろうか。

 男鹿工FWのディフェンスでの頑張りには頭が下がる思いだったが、特に一番最初のチャージを決めた4澤木選手が痛い仕事も頑張っていて印象に残った。彼が前半で下がってしまった時、FWが崩れないかと少し不安にも、もう少し見てみたかったと残念にも思ったくらい。173㎝でLO、大変だったろうけれど、お疲れ様。

 ちなみに、男鹿工の監督は、佐々木弘樹氏。内藤監督の教え子とのこと。
 試合中に選手にかけている声の雰囲気もよかった、ような。
 

 <おまけ 2>
 八橋運動公園のすぐ側(陸上競技場のすぐ近く)に、石田三成の墓がある(笑)。
 ということで、後輩と探して行ってきた(この顛末、機会があればまた別に)が、ちらっと調べたところ、三成本人のものと考えるのは難しいようだ。
 高野山にはあったけどね~(あったよね?→夫に確認しよう。あそこはお墓が多すぎて、一体何を見たのか覚えられない ><)
 陸上競技場横には「日本最初の製油所の跡」という碑も立っており、なかなか奥深い場所かもしれない(でももう少し早く着席しましょう)。さすがラグビーマッド地帯(関係ない)。
by kefurug | 2009-10-29 18:03 | 花園予選'09

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